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夕暮れの海を帆走する Orient Express Corinthian(プレスリリースの画像)に、見出し「オリエント急行が、海へ。」を添えた表紙(デザイン:LUQ編集部)

画像:株式会社progetto81(B&B Italia Tokyo/Maxalto Tokyo)
(PR TIMES掲載のプレスリリース)/デザイン:LUQ編集部

目的地へ急ぐのではなく、移動そのものを旅にする。オリエント急行が、その思想を鉄道から海へ運んだ。全長220m、54室、乗客110人に対して乗員170人。世界最大の帆走ヨット「Orient Express Corinthian」は、船というより、風で進む小さな街である。

オリエント急行は、なぜ海へ向かったのか

オリエント急行と聞けば、濃紺の客車、白いテーブルクロス、窓の外を流れるヨーロッパを思い浮かべる。

その名が、海へ出た。

Orient Express Corinthianは2026年4月29日、フランスのサン=ナゼールで命名され、5月2日に地中海へ向けて出航した。Orient Expressとフランスの造船会社Chantiers de l’Atlantiqueの協業から生まれ、同社が建造した全長220mの帆走ヨットである。

ブランドが鉄道を捨てたわけではない。

列車、ホテル、そしてヨット。どの舞台でも共通するのは、移動を目的地までの空白にしないという考え方だ。

早く着くことより、着くまでを美しくする。

Orient Express Corinthianは、オリエント急行の名を海へ移したのではなく、その時間の使い方を海へ広げた船だ。

220mの船を、3枚の帆で動かす

全長720フィート、約220m。幅は83フィート、約25m。船上には高さ100mを超える3本のマストが立ち、それぞれに1,500㎡のSolidSailを備える。

SolidSailは、一般的な布の帆より硬い構造を持つ大型帆だ。帆は360度回転し、マストは最大70度まで傾けられる。傾ければ、世界の大きな橋の下も通れる。

条件が整えば、風だけで推進力の100%を担う。2026年2月の海上試験では、風速20ノットの中、帆走だけで12ノットを記録したと公式発表は説明する。

ただし、「風だけでどこまでも走るゼロエミッション船」ではない。

帆走を補うのは、液化天然ガス(LNG)を使うハイブリッド推進だ。公式によれば、帆走中もホテル機能のために一部の燃料は必要になる。「100%風力」は好条件下での推進の能力であり、すべての航海が無燃料という意味ではない。

船はSEA.AIと組んだ検知システムで漂流物を見張り、海面の海洋哺乳類を見つけるAIの仕組みも開発中だという。海底に弱い生き物がいる場所では、錨を下ろさずに位置を保つダイナミック・ポジショニングで海底を守る。

技術を誇るためだけではなく、この大きさの旅を、風とどう折り合いながら続けるか。その試みまで含めて見たい。

110人のために、170人が乗る

乗客は最大110人。乗員は170人。

乗客より、サービスと運航を担う人のほうが多い。

大型クルーズ船が数千人を運ぶのに対し、Orient Express Corinthianは54室だけを載せる。規模は巨大でも、体験は小さなプライベートヨットへ近づける。そのための数字が、110対170である。

各スイートには専任のバトラーが付く。食事を急いで終え、次のイベントへ走るためではない。予定を組み替えたい時、部屋で静かに過ごしたい時、寄港地へ出る前後の時間まで滑らかにするためのサービスだ。

豪華さは、目に見える素材だけでは測れない。

待つ時間が少ないこと。名前を何度も伝えなくていいこと。大勢の中にいながら、自分のペースを失わないこと。

170人という数字は、空間よりも先に、時間を整えるための設計なのである。

54室。いちばん小さくても40㎡超

54のスイートは4つのデッキに配置され、広さはAccorの発表で45〜230㎡(公式サイトの客室一覧では43〜231㎡)。すべてのスイートに3.60mのパノラマウィンドウがあり、天井高は現行の業界標準より25cm高く取られている。

いちばん小さな客室でも、都市の高級ホテルにある十分な広さを持つ。

大理石、革、銘木の化粧材。内装を率いたのは、Orient Expressのクリエイティブディレクターでもある建築家Maxime d’Angeac。英語版の発表によれば、2,000近い職人、芸術家、工房が加わり、船はすべてフランスで建造された。

船内の家具を手がけたのは、イタリアのB&B Italia Groupだ。日本総代理店の株式会社progetto81が2026年7月1日に配信したリリースによると、同グループはOrient Expressと組み、Maxime d’Angeacのデザインによる特注家具52種類・500点以上を10か月で設計・製作した。さらにB&B ItaliaとMaxaltoのコレクションから、Caratosチェア、Liliumソファ、Pathosコンソールテーブルなど130点以上の既製品が採用されている。

ここで興味深いのは、海を眺めるためだけの白く明るいリゾート空間にしなかったことだ。

オリエント急行と、かつての大型客船が持っていたアール・デコの記憶を、現代の線と素材で描き直している。外には水平線、内側には深い木の色、ガラスの光、石の重さがある。

海の景色は毎分変わる。その前に置く室内を、流行だけで軽くしない。

その対比が、船室を単なる寝場所ではなく、航海を見るための額縁にする。

船の中に、旅の目的地がある

命名時の発表によれば、5つのレストランとプライベートダイニングを監修するのは、複数のミシュラン星を持つシェフYannick Alléno。バーは8つあり、その中にはアール・デコのスピークイージーもある。

さらに、115席のキャバレー、レコーディングスタジオ、Guerlainのスパ、16.5mのスイムレーン、プール、海へ直接出るマリーナを備える。

本を読むなら、1,500冊を収めるライブラリー。映画なら少人数のシネマ。音楽サロンには常駐の音楽家がいて、コンサートやオークションなどの催しが開かれる。

施設の数だけを追うと、一日ですべてを回りたくなる。

けれど、この船に似合うのは反対の使い方かもしれない。

午前は寄港せず、本を読む。午後に海へ出て、戻ったらスパへ行く。夕食の後に音楽を聴き、翌日は何もしない。

「船内で退屈しないため」の設備ではなく、何をしないかまで選ぶための場所。目的地に着く前から、旅は十分に始まっている。

3泊約286万円から。その価格に何が含まれるか

公式サイトに掲載されている2026年秋の旅程を見ると、価格の大きさが具体的になる。

旅程日程泊数1室あたりの最低料金円換算の目安
Iberian Horizons with Málaga, Cadiz & Lisbon2026年10月9日〜12日3泊17,100ユーロ約307万円
Ocean Rebirth, a Transatlantic Wellness Retreat with Guerlain2026年10月12日〜26日14泊60,200ユーロ約1,082万円
Antilles Escape2026年10月26日〜29日3泊15,900ユーロ約286万円

円換算は2026年9月25日の欧州中央銀行参考レート、1ユーロ=179.70円による単純計算。いずれも税を含む1室あたりの最低料金で、為替、空室、客室カテゴリーにより変わる。

船内の食事や多くの体験は料金に含まれ、命名時の公式発表は「fully inclusive」と案内している。ただし公式FAQによれば、Yannick AllénoのレストランLa Tableでの食事、一部のワインと蒸留酒、Guerlainスパのトリートメントは別料金だ。

航空券、前後泊、任意の寄港地ツアーも料金外だ。空港と港の送迎は距離の条件付きで含まれ、旅行保険は加入が勧められている。何が含まれるかは旅程ごとに確認したい。「オールインクルーシブ」という言葉だけで総額を決めないことが大切だ。

3泊約286万円は、日数だけで割れば理解できる価格ではない。

220mの船、54室、170人の乗員、料理、工芸、そして風で進む時間。その全体を1室のためにどこまで用意するか。その設計へ支払う旅である。

LUQの見方:移動時間を、人生へ戻す

現代の移動は、速さで測られる。

何時間短くなったか。乗り換えが何回減ったか。到着まで仕事ができるか。

Orient Express Corinthianは、そのものさしを逆にする。

風を待ち、海を見て、食事をし、まだ着かないことを楽しむ。移動時間を削るのではなく、人生へ戻す。

もちろん、誰にでも届く旅ではない。3泊の最低料金でさえ、一般的な海外旅行の予算を大きく超える。環境面でも、好条件なら風だけで進めることと、航海全体が無排出であることは違う。

それでも、この船が示す問いは面白い。

もし移動が、耐える時間ではなく、待ち望む時間になったら。もし目的地をひとつ減らしてでも、そこへ向かう過程を選びたくなったら。

オリエント急行が海へ持ち出したのは、豪華な内装だけではない。

急がない時間にも価値があるという、旅の古くて新しい考え方だ。

LUQがこの船に見る贅沢は、220mの大きさではない。

「まだ着かなくていい」と思える時間である。

文:LUQ編集部

2026年9月26日時点の公式公開情報をもとに構成。LUQによる乗船・宿泊体験記事ではありません。料金、旅程、設備、運航条件は変更される場合があります。

出典・関連リンク

Accor公式/命名、技術、客室、施設、主要諸元
https://press.accor.com/orient-express-and-chantiers-de-latlantique-celebrate-the-naming-of-orient-express-corinthian-the-worlds-largest-sailing-yacht-in-saint-nazaire/?lang=eng

Orient Express公式/Corinthian
https://www.orient-express.com/en/sailing-yachts/yachts/orient-express-corinthian

Orient Express公式/54室・110人の体験
https://www.orient-express.com/en/sailing-yachts/latest-news/orient-express-corinthian-new-horizon-luxury-cruise

Orient Express公式/旅程・料金
https://www.orient-express.com/en/sailing-yachts/itineraries

欧州中央銀行/ユーロ・円の参考為替レート
https://www.ecb.europa.eu/stats/policy_and_exchange_rates/euro_reference_exchange_rates/html/eurofxref-graph-jpy.en.html

Orient Express公式/オールインクルーシブ
https://www.orient-express.com/en/sailing-yachts/all-inclusive-journey

Orient Express公式/FAQ(料金に含まれるもの)
https://www.orient-express.com/en/sailing-yachts/faq

Orient Express公式/Our commitments(帆走・環境)
https://www.orient-express.com/en/sailing-yachts/our-commitments

B&B Italia Group(配信:株式会社progetto81)/内装のプレスリリース
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000084.000016901.html