28年にわたり、ドン ペリニヨンの5代目醸造最高責任者を務めたリシャール・ジョフロワ。その次の舞台は、フランスでも大都市でもなく、富山県立山町だった。
彼が2020年に世へ出した日本酒が「IWA 5」だ。
注目すべきは、著名な醸造家が日本酒を造ったという話だけではない。IWA 5は、日本酒の価値を精米歩合や単一の仕込みだけで語らず、複数の原酒を組み合わせる「アッサンブラージュ」を中心に据えた。シャンパーニュで磨いた技術をそのまま移植したのではなく、日本酒の伝統の中へ、新しい評価軸を持ち込もうとしている。
現行作は「IWA 5 アッサンブラージュ6(2024)」。これは有名人の名前で売る酒なのか。それとも、約1万6千円を払って確かめる価値のある、新しい日本酒なのか。
※本稿は公式資料と販売情報をもとにしたブランド/購入ガイドです。LUQ編集部による実飲レビューではありません。
まず結論。IWA 5の本体は「元ドン ペリニヨン」ではない
IWA 5を知る入口として、リシャール・ジョフロワの経歴はあまりに強い。
しかし、肩書きだけを見てしまうと、この酒の面白さを半分しか捉えられない。
IWA 5の本体は、日本酒を「一つの仕込みを磨き上げる酒」だけでなく、「異なる要素を組み合わせ、全体の調和を設計する酒」として提示したことにある。
日本酒でブレンドそのものが前例のない技術というわけではない。それでも、ブランドの思想、醸造、熟成、毎年のリリースまでを一貫して“アッサンブラージュの探求”として見せる銘柄は珍しい。
IWA 5は、最高級の酒米や極端な精米歩合を数字で競う一本ではない。複数の個性を混ぜた結果として、豊かさと軽やかさ、複雑さと一体感を同時に成立させようとする一本だ。
なぜ、富山県立山町だったのか

画像:株式会社白岩
IWAの拠点は、富山県立山町白岩にある。
南には立山を含む飛騨山脈、北西には富山市、その先には日本海。深い雪と、山々に磨かれた水、田園、都市が近い距離でつながる土地だ。ブランド名の「IWA」と会社名の「白岩」も、この地名に由来する。
ジョフロワは、海外で設計して日本で製造するだけの酒ではなく、日本の土地に根を下ろした“日本の酒”であることを重視した。だからこそ、自前の蔵を構え、地域の風景と日々の仕事を切り離さなかった。
これは「フランス人が日本酒を造った」という異文化企画ではない。外から得た視点を持つ造り手が、土地を選び、そこに長く居続けることで、日本酒へ新しい解釈を加える試みだ。
「磨き」ではなく、「組み合わせ」で価値をつくる
IWA 5の核となるのが、アッサンブラージュである。
初代IWA 5では、産地の異なる山田錦、雄町、五百万石と5種類の酵母など、複数の要素から造った酒を組み合わせた。目的は、個々の特徴を並べることではなく、単一の酒では届かない調和をつくることだった。
ジョフロワはブレンドを、多くの楽器を制御し、一つの音楽へまとめる作業にたとえている。強い香り、酸、旨味、苦味を一つずつ目立たせるのではない。それぞれが必要な場所と瞬間に現れ、飲み始めから余韻まで破綻せず続くように設計する。
この発想は、日本酒の価値を精米歩合の数字だけで判断しないための提案でもある。
米をどこまで磨いたかは重要な情報だが、それだけで味の優劣は決まらない。IWA 5は、米、酵母、醸造方法、熟成時間など、より多くの要素を含めて最終的なバランスを考える。
なぜ「5」なのか
IWAにとって5は、バランス、ハーモニー、融合、本質を象徴する数字だ。
同時に、ブランドの中心にあるアッサンブラージュそのものを表している。
ここで紛らわしいのは、「IWA 5」の5と「アッサンブラージュ6」の6が別の意味を持つことだ。
- IWA 5:ブランド名。5は調和とアッサンブラージュの象徴
- アッサンブラージュ6:第6作目。2024年に醸造された現行リリース
数字が進むたびに同じ酒を再生産するのではなく、その年の探求を反映して表情を変える。完成レシピを固定しないことも、IWAの個性になっている。
ボトルから酒蔵まで、一つの思想でつくられた

画像:株式会社白岩
IWA 5は、液体だけで完結するプロジェクトではない。
深い色とマットな質感を持つボトルは、プロダクトデザイナーのマーク・ニューソンが手がけた。白いガラスの層で表現された書は、書道家の木下真理子とアートディレクターの中島英樹によるものだ。
そして立山町の酒蔵「白岩」は、建築家・隈研吾が設計した。
ボトル、書、建築を有名クリエイターで固めた、と見ることもできる。だが、共通するのは派手さではない。黒に近いボトル、白い文字、土地の景観へ低く溶け込む建築。いずれも主張を抑え、内側の体験へ意識を向けるデザインだ。
現行作「アッサンブラージュ6」は、何が違うのか
第6作目となる「アッサンブラージュ6(2024)」で掲げられた言葉は、フランス語の「Épure(エピュール)」だ。余分を削ぎ落とした、純粋な線を意味する。
公式説明によると、香りの中心は洋梨とプラム。青葉、香ばしい米、海苔、カカオのニュアンスが重なり、味わいは前作よりややドライ。果実、花、海を思わせる要素が一体となり、空気に触れるとブリオッシュのような質感が現れ、長い余韻へ続くとされる。
興味深いのは、第6作を“足し算の到達点”ではなく、余分を削り、最初から最後まで一本の線を通す表現としていることだ。
複雑さを増やすことと、複雑に感じさせることは同じではない。多くの要素を使いながら、飲み手には一つの流れとして届かせる。アッサンブラージュ6は、IWAが6年かけて磨いた設計思想を最も端的に見せる一本といえる。
約1万6千円は、何に払う価格なのか
「IWA 5 アッサンブラージュ6」は720ml。2025年10月の発売時価格は15,730円(税込)だった。
2026年9月28日の確認時点では、IWA公式オンラインショップは15,730円(税込)で購入可能な表示。一方、銀座・和光の公式オンラインブティックでは16,500円(税込)、2〜5営業日以内発送の商品として掲載されている。販売状況と価格は変わるため、購入時に確認したい。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 商品名 | IWA 5 アッサンブラージュ6(2024) |
| 内容量 | 720ml |
| 醸造地 | 富山県立山町白岩 |
| 発売日 | 2025年10月1日 |
| 発売時価格 | 15,730円(税込) |
| 2026年9月28日の販売例 | IWA公式オンラインショップ 15,730円(税込)/和光公式オンラインブティック 16,500円(税込) |
この価格に納得できるかは、単なる香味の強さでは決まらない。
毎年異なる酒を組み、変化そのものを作品として残すこと。ボトル、書、建築まで同じ思想で整えること。そして、日本酒を世界の食卓で語れる文脈へ置き直すこと。IWA 5の価格には、その一連の設計が含まれている。
反対に、精米歩合、希少米、受賞歴など、分かりやすい数字で価格を判断したい人には、価値が見えにくいかもしれない。
どんな人に向いているか
向いている人
- 日本酒とワインの両方が好きで、ブレンドという考え方に興味がある
- 香りの派手さより、食事の始めから終わりまで続く調和を重視する
- 造り手、土地、建築、ボトルまで含めて一本の背景を楽しみたい
- 定番の銘柄ではなく、会話が始まる贈り物を探している
- これまでのIWA 5と飲み比べ、年ごとの変化を楽しみたい
慎重に考えたい人
- 数字で分かる希少性や極端な精米歩合を最優先する
- 甘口、辛口といった一語だけで好みを決めたい
- 約1万6千円の日本酒に、味だけで即座に分かる派手さを期待する
- 開栓後に短時間で大人数へ飲み切るだけの用途を考えている
IWA 5は、万人に薦める日常酒ではない。だからこそ、単に高価な酒を選ぶのではなく、この酒が何を変えようとしているのかに惹かれる人が選ぶべき一本だ。
LUQの結論
IWA 5の魅力は、ドン ペリニヨンを率いた男が日本酒を造った、という驚きで始まる。
しかし、読み進めた先に残るのは肩書きではない。
単一の仕込み、精米歩合、産地といった一つの尺度だけではなく、複数の個性を組み合わせた“全体の調和”に価値を置くこと。富山に蔵を構え、日本の伝統へ敬意を払いながら、新しい評価軸を加えること。その姿勢こそが、IWA 5を面白くしている。
アッサンブラージュ6は、ただ要素を増やした酒ではない。多くを重ねたうえで、余分を削り、一つの線へ整えた酒だ。
約1万6千円で買うのは、元ドン ペリニヨンという経歴ではない。
日本酒を、別の角度から見直す体験である。
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