家族で移動するなら、広さと座席数があればいい。
そう考えた瞬間、クルマは便利な箱になる。
LEXUS TZが目指したのは、その先だ。運転する人だけでなく、2列目、3列目までが心地よく過ごせること。移動に費やす時間そのものを、上質な体験へ変えること。
TZはLEXUS初の3列シートBEV。日本発売は2026年冬頃を予定している。公式発表には、航続距離620km、システム最高出力300kW[407.8PS]、0-100km/h加速5.4秒という数字が並ぶ。
だが、このクルマの本質は速さだけではない。
竹、香り、光、音、静けさ。そして、大切な人と同じ時間を過ごすための空間。家族のためのEVに、美意識は必要なのか。公式情報を基に、TZが提案する新しい高級SUVの形を考える。
※本記事は2026年9月26日時点の公式発表に基づく紹介・考察記事です。LUQ編集部による実車試乗レビューではありません。

3列目を「予備席」にしない
3列シートのSUVでは、最後列が「必要なときだけ使う席」になりがちだ。
TZは、その前提を変えようとしている。
低床の新開発プラットフォームと3,050mmのロングホイールベースを使い、3列すべてで快適に過ごせる空間を目指した。LEXUSは、3列目についても大人がゆったり座れる居住性をうたっている。
助手席と2列目には、仕様に応じてオットマンを設定。3列目を含む全席のシートヒーター、シートベンチレーション、大開口の可動式パノラマルーフなども用意される。
重要なのは、単に座れる人数を増やしたことではない。
1列目だけが上質で、最後列へ行くほど我慢が増える。そんな従来の序列を薄め、どの席でも「その時間を過ごせる場所」にしようとしている。
3列使用時の荷室容量は290L。2列目と3列目を倒せば最大2,017Lまで広がる。家族の旅行と大きな荷物の両方を受け止める実用性も、きちんと残されている。

全長5.1m、全幅1.99m。大きさは価値であり、弱点でもある
TZのプロトタイプ主要諸元は次のとおり。
| 全長 | 5,100mm |
| 全幅 | 1,990mm |
| 全高 | 1,705mm |
| ホイールベース | 3,050mm |
| 車両重量 | 2,630kg |
| 駆動方式 | AWD |
| システム最高出力 | 300kW[407.8PS] |
| 0-100km/h加速 | 5.4秒 |
| バッテリー総電力量 | 95.82kWh |
| 日本向け航続距離 | 620km |
| 荷室容量 | 290~2,017L |
※すべてプロトタイプ値。航続距離は22インチタイヤ装着時のWLTCモードによる開発中の暫定値です。
全幅1,990mmは、ほぼ2mだ。数字から受ける印象以上に大きい。
一方、Dynamic Rear Steering装着車の最小回転半径は5.4m。後輪を最大4度操舵することで、車体の大きさに対して取り回しやすくしている。非装着車は5.8mだ。
ただし、曲がりやすさと駐車しやすさは同じではない。
自宅駐車場の幅、機械式駐車場の制限、旅先の細い道、充電器の左右スペース。購入を考えるなら、航続距離より先に「日常でこの幅を受け入れられるか」を確認したい。
大きさは、広い室内を生む価値である。同時に、日本で所有するうえでは明確な弱点にもなる。
高級車だから不便を見ないのではない。不便まで理解したうえで選ぶことが、長く付き合うための条件だ。

620kmと約35分。充電の不安はどこまで消えるのか
日本向けの航続距離は620km。95.82kWhのバッテリーを搭載し、150kWの急速充電では、充電量10%から80%まで約35分とされている。
ただし、どちらも開発中の暫定値だ。
620kmは22インチタイヤ装着時のWLTCモード値。約35分という充電時間も、バッテリー温度が約25℃であることなど、一定条件で測定された目安になる。
実際の航続距離は、速度、気温、乗車人数、空調、道路状況で変わる。3列を使って家族で長距離を走る場面では、カタログ値だけで予定を組むべきではない。
TZには、充電前にバッテリー温度を整えるプレコンディショニング機能や、V2H、外部給電機能も用意される。日本仕様では、対応機器を使って合計約1.5kW以下の電気製品を動かせる予定だ。
620kmという数字だけを見ると、充電の不安はかなり小さく感じる。
しかし、本当に大切なのは自宅で充電できるか、よく使う経路に急速充電器があるか、35分をどう過ごすかだ。EVの使いやすさは、車両だけでなく、所有者の生活環境まで含めて決まる。

407.8PSでも、速さを主役にしない
TZのシステム最高出力は300kW[407.8PS]。前後に高出力モーターを備え、0-100km/hを5.4秒で加速する。
2,630kgの3列SUVとしては十分に速い。
だが、LEXUSがTZで強調しているのは、加速そのものではない。
四輪駆動力システム「DIRECT4」は、発進、直進、旋回に合わせて前後の駆動力を細かく配分する。さらに「REAR COMFORT」モードでは、加速時の前後揺れ、カーブや車線変更時の横揺れ、減速時のノーズダイブを抑え、後席が穏やかに過ごせる動きを目指す。
一方、仕様によっては8速の仮想ギヤをパドルで操作する「Interactive Manual Drive」も用意される。
後席のために静かに走るモードと、運転する人がクルマとの対話を楽しむ機能。その両方を同じ車内へ入れたところに、TZの狙いが見える。
ドライバーだけを喜ばせるのでも、完全な送迎車になるのでもない。
運転する楽しさと、乗せる責任。その二つを両立できるかが、TZの評価を決める。
実際の乗り心地、ブレーキの自然さ、3列目の揺れについては、試乗できる段階で改めて確かめる必要がある。

竹、香り、光、21スピーカー。贅沢の作り方が違う
TZの内装で興味深いのは、豪華さを革や木目の量だけで表現していないことだ。
インストルメントパネルやドアトリムの一部には、四国の竹材を粉砕し、樹脂へ混ぜ込んだ「Forged bamboo」を使用。植物由来原料を含む高触感素材や、リサイクルアルミも採用する。
さらに「Sensory Concierge」では、イルミネーション、音楽、映像、空調、香りを連動させる。竹林の空気から着想を得た香りを含む5種類のフレグランスが用意され、最大3種類のカートリッジをセットできる予定だ。
オーディオには21スピーカーのMark Levinsonシステムを採用。後席を重視した音場も選べる。
操作系も面白い。
ステアリングやインストルメントパネルには、手をかざすと機能アイコンが現れるスイッチを採用する一方、頭上やドア周辺には操作しやすい物理スイッチを残している。
見た目を整理するために、何でも画面へ押し込んだわけではない。美しさと使いやすさを両立しようとする姿勢がある。
もちろん、香りや光の演出は、実際に触れなければ上質なのか過剰なのか判断できない。
それでも、これからの高級車が「高価な素材を多く使った車」だけではなく、五感と時間を設計した空間へ変わろうとしていることは伝わる。

TZが向く人、発売前に待つべき人
TZが向くのは、次のような人だ。
- 3列目を日常的に使う
- 家族や友人との長距離移動が多い
- 自宅充電環境を用意できる
- 後席の快適性だけでなく、自分で運転する楽しさも欲しい
- 大きな車体を置ける駐車環境がある
- 移動時間を、単なる移動で終わらせたくない
一方、現時点で契約を急ぐ段階ではない。
価格、グレード構成、標準装備、保証内容、日本仕様の最終的な航続距離と充電性能は、まだ正式発表されていない。Sensory Conciergeやオットマンなども、地域や仕様によって異なる。
全幅1,990mmが生活圏に合うかも、必ず確認したい。
3列目を年に数回しか使わないなら、より小さく、効率のよい選択肢が合う可能性もある。自宅充電が難しい場合は、620kmという数字だけで利便性を判断できない。
発売前の現時点で出せる結論は、「買い」でも「見送り」でもない。
価格と日本仕様、実車の乗り心地が揃うまで待つ。ただし、候補から外す理由もない。これが最も現実的な判断だ。

LUQの見方:家族車に美意識を持ち込んだ意味
TZの価値は、620kmでも407.8PSでもない。
それらは、不安や不満を減らすための土台だ。
本当の提案は、家族のためのクルマであっても、運転する楽しさや、素材の美しさ、音、光、香りを諦めなくていいということにある。
実用性を求めると、デザインは後回しになる。快適性を求めると、運転は退屈になる。環境性能を求めると、我慢を美徳にしがちだ。
TZは、そのどれか一つを選ばせるのではなく、全部を同じ空間に収めようとしている。
成功しているかは、まだ分からない。価格も分からず、市販車にも乗っていない。
それでも、家族車に美意識を持ち込んだ意味は大きい。
クルマは、目的地へ早く着くためだけの道具ではない。大切な人と過ごす時間を包む場所でもある。
高級SUVが「走るもの」から「過ごす場所」へ変わるなら、LEXUS TZは、その転換点になるかもしれない。
本記事は2026年9月26日時点で公開されているLEXUS公式情報を基に構成しています。掲載車両および主要諸元はプロトタイプであり、市販仕様と異なる場合があります。価格、グレード構成、一部装備は未発表です。本記事はLUQ編集部による実車試乗レビューではありません。
公式情報(2026年9月26日に確認)
